事例5
都市軸の変換
・地区名称:堀川〜大正地区
・和歌の技法:「本歌取り」
□連鎖分析
1.微小な屈折道路と近世街路の残存
近世期の大阪は河川交通を中心とした街づくりがなされるのであるが、その後の近代都市計画において、縦横に通じた河川は不都合な要素となり、昭和30年代に一斉に埋め立てられるのである。
その結果、図(A)に見られるように、かつて「水都」と呼ばしめた要因である水路は、現代において特徴的な「地割」へと継承されている図(B)。江之子島といった島の形状すらも取り込んだ西大阪の地割はパッチワーク状に組み合わされており、地割に過去の「水路網」を温存させてきたことが理解される。面白いことに現在この地区では、島の形状をそのままに形成されているオフィスビルなどの建物群を見かけることが多い(図C)。
写真(D,E)は当時、江戸堀川が存在していた地点の現在の景観である。今となっては、そこに堀が通されていたことすら意識されることはないのであるが、微妙に屈折した街路にその痕跡を留めている。江戸堀川は昭和30年代に埋められた。埋立で生じた土地を利用して、堀川で分断されていた街路をつなげたために、このようなゆがんだ道が形成されたのである(図F)。
写真(G)は、近世期の街路が南北幹線道路の横に残ってしまった例である。近世期の地割(図H)を確認すると、大きくは東西方向を基調としながらそれぞれの島の形状に合わせて敷設された地割の上に、近代計画道路が入り込んでいるのが確認される。計画道路は、途中までは近世期の地割に沿って引かれるが、途中から正確に南北方向へと進路を変更する。その結果、微妙な空白地が形成されたのである。
これらの現象はなぜ生じたのだろうか。要因の一つとして、近世から近代にかけての水運から陸運という交通体系の変化によるためと言うことができる。しかし、もう一つの要因に、当時の人間が都市をどのように認識していていたのか、という問題があるのではないだろうか。
2.既存都市に重ねられた計画というレイヤー ム近世都市構造と近代都市計画ム
図(I)は江戸期に描かれた地図であるが、上に大阪城、下に大阪湾を置いた構成となっている。江戸期の大坂地図は東西に長く延びた形態として描かれているものが多い。また、近世期には主要な街路として南北方向の「筋」と東西方向の「通り」あるが、重要視されたのは「通り」の方であった。つまり、当時の人間は大坂を観念の上では、東西方向を都市軸として捉えていたということである。その東西方向の都市軸という構造的特質は、大正地区で盛んに行われた埋立地でさらに拡張を引き起こすことになる。(図J)
しかし一転して、明治以降、関一による御堂筋の開発に見られるような南北方向を主軸とした開発がなされるようになる。この都市軸の変化は、色々な事象を引き起こすこととなる。例えば、旧紀州街道にあたる堺筋は、明治九年、国道二十九号線とされ、大正元年には市電の開通とともに拡張される。その後、三越(大正6年)・高島屋(同11年)などのデパートが続々と進出してくる。
問屋街を連絡する経済的な動脈としての重要性から、旧紀州街道を国道へと変更させたのであるが、興味深いことは、既存の都市構造を読み替え、新しい意味を付加させている事実である。
その反面、御堂筋、堺筋といった南北幹線道路によって、主とされた東西方向に形成された市街が分断され、主従の関係が反転するという事態も生じている(図K)。
大阪は近世から近代かけて都市軸を変更した。その都市軸を回転させるという計画のウラには、既存都市を一変させる読み替えという事象が潜んでいるのである。
□ まとめ
この地区でみられた種々の現象は、東西方向に形成された既存都市に対し、南北方向を主軸とする計画がなされたために生じた結果である。小さな屈折道路、断片的に残された近世街路などといった現象は、ほんのささいな事例ではある。しかし、その形成されるメカニズムの背景には、より大きな構造が存在している。微小な都市要素も多分に歴史的領域とも言える背景をもって、現在の都市を構成する。一本の道という部分と都市全体は密接につながりをもち、関係しあっているのである。(矢本)
図A 寛永末の大阪の堀川
出典:玉置豊次郎「大坂建設史夜話・大坂古地図集成」
(財)大阪都市協会・1980年図B 江戸期の堀川と現代地図の重ね合わせ
(現代地図:大阪市作成)図C 島の形状がそのまま立上がった建物群 図D、図E 堀の跡に形成された屈折道路 図F 屈折道路形成概念図
図G 幹線道路横に残された近世街路
図H 近世街路の残存概念図
図I 東西方向に描かれた大坂(新板大坂之図・明暦三年)
出典:(前掲)玉置豊次郎「大坂建設史夜話・大坂古地図集成」
図J 西側に拡張された埋立地
出典:(前掲)玉置豊次郎「大坂建設史夜話」
図K 南北幹線道路に分断された東西通り
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