募集要項
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◆募集要項
結果
審査経過
総評・表彰式

第1回:地域特性を活かした良質なミニ開発
ごあいさつ

生活様式や価値観が多様化する昨今、ゆとりある生活を営むことを目的とした田園居住に対するニーズが増大しています。その一方で、都市近郊では、乱立するミニ開発によって美しい田園風景が失われつつあります。
当コンペは、このような現状のもと、「地域環境を活かした21世紀型田園居住」の提案を募ることを目的としています。皆さまの日頃抱いている問題意識、柔軟な創造力を十分に発揮する提案を期待します。
初の開催となりますが、皆様からのご応募、心よりお待ちしております。

平成16年11月
岡田 愛

主催  岡田 愛
後援  大阪市立大学大学院
協賛  編集出版組織体アセテート


課題:地域特性を活かした良質なミニ開発

 都心部および周辺の住宅地で、1000m3(約300坪)未満の敷地を細分化し、100m3未満の小規模戸建て住宅を売る「ミニ開発」と呼ばれる動きが頻繁にみられるようになってきた。これはある宅地にさらに割り込んででも住み込みたいという人々の欲望に成り立っている。それはその宅地が、住み手にとってとても魅力的な立地環境を有していることにほかならない。
 しかしミニ開発は、空き地の柔軟で合理的な利用や手頃な価格設定での住宅供給を可能とする反面、開発次第では、住環境の悪化や周辺住宅地の価格の下落にもなりかねない。ミニ開発の奇抜なデザインは、かえって個性のない住宅地をつくりだし、周辺住宅地との関係を希薄にするのである。これは何と悲しい矛盾であろうか。
 本設計競技では、『地域特性を活かした良質なミニ開発』の提案をもとめたい。地域特性を活かすことで、小規模ながらも個性豊かな分譲住宅が可能となり、周辺住宅地との関係もより密接になると考えられるからである。ミニ開発にもとめられている条件とその立地環境において保持すべき良好な質双方を実現することが最低条件である。それゆえ応募者は、
・ミニ開発にもとめられている諸条件(とくべき問題)
・ 立地環境において保持されるべき諸条件、特性
 双方を明確にし、それに対する解決を与えるかたちで案を提示してもらいたい。


提案内容

対象地区内において、適切規模の敷地を設定し、小規模分譲住宅を提案してください。各住戸の述べ床面積が30坪程度になるように設計して下さい。
・全体敷地形状、敷地面積は別途資料の通りとしますが、敷地の区画割りは自由とします。
・各住宅の専用部分の面積配分は特に指定しませんが、近年のユーザーニーズを反映する計画とします。
・各住宅には、駐車場を1台以上配置してください。
・植栽などの外構計画にも重点を置いてください。

【計画地の概要】
対象地区…浜寺地区、上野芝向ヶ丘地区、初芝地区、大美野田園都市地区(いずれも堺市)
建蔽率…70%とします。
敷地面積…1000m2以内

募集要項及び地図はこちらからダウンロードできます。


審査委員 審査委員長 岡田 愛 (某住宅メーカー研究員)
審査委員  中谷礼仁 (大阪市立大学専任講師・歴史工学家)
      前川 歩 (都市連鎖デザイナー)
      福島ちあき(ミニ開発研究者)

最優秀作品 1点 世の中のことがよくわかる6冊の本
優秀作品  2点 世の中のことがよくわかる2冊の本

発表 審査の結果は入賞者に通知すると共に、
専用ページにて公開します。

応募登録期間 2004年12月1日〜12月31日

応募資格 建築を専門とする個人、グループ、企業等(グループ、企業、共同企業体等の場合、代表明記)

作品提出締切 2005年2月3日
(持参の場合は正午まで、郵送の場合は当日消印有効)


提出図面 配置図・平面図・立面図・断面図(各図面の縮尺は自由)、透視図、模型写真など、その他設計意図を表現する図面(説明はできるだけ図面のみですること)。

用紙 中判ケント紙あるいはそれに類する厚紙
(594mm×841mm)1枚におさめること。表現方法は青焼き、鉛筆、インキング、着色、写真貼付、プリントアウトなどいずれも自由。ただしパネル化は不可。

質疑 課題に対する質疑応答はいたしません。
規定外の問題は応募者が自由に決定すること。


提出方法 受付期間内に下記へ持参または郵送して下さい。

作品提出先 大阪市立大学工学研究科都市系専攻建築デザイン研究室 C428
「田園になお住まう 小規模分譲住宅(ミニ開発)設計競技係」(必ず明記のこと)
〒558-8585 大阪市住吉区杉本3丁目3番地138号

その他 ・応募作品は未発表作品に限ります。
・本設計競技の応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、入賞作品の発表に関する権利は主催者が保有します。
・応募作品は要望があれば返却いたします。
・同一作品の他設計競技との二重応募はご遠慮下さい。
・応募作品の一部あるいは全部が、他者の著作権を侵害するものであってはなりません。また、雑誌や書籍、ホームページなど著作物から複写した画像を使用しないこと。著作権侵害の恐れがある場合は、主催者の判断により入選を取り消すことがあります。
・入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべての応募者の責任となります。また、入賞者の応募者による登録内容の変更は受付できません。
・応募に関する費用(送料・税金・保険など)は、すべて応募者が負担すること。

登録受付先 登録受付終了いたしました。

お問合せ先 severalness@yahoogroups.co.jp
件名を「小規模分譲住宅(ミニ開発)」設計競技募集からはじめるようにして下さい。





◆結果

1等 大竹佳世(大阪市立大学大学院)
西本恭子(大阪市立大学大学院)

本計画では、境界を不明瞭にするものを「しらくも」とよぶ。
都市のしらくもは、敷地の北(条里制)と南(田園都市開発)で不連続なグリッドを繋ぐような道を、将来的に通せる敷地割。条里制と田園都市の境界は、くもがくれする。
家のしらくもは、狭い敷地に建つ数個の住宅を一つの大きな家に見せるように、家と家の境界に配される植栽。ミニ開発による住宅を周辺の大きな住宅スケールに調和させ、また断面的に緑地も確保する。
家のしらくもは、視線の抜けを考慮した垂れ壁や腰壁。狭い住宅内で、断面計画を有効に使って全体をつなぎつつ、各部屋のプライバシーを確保する。
ミニ開発で生じる様々なずれを、くもがくれさせてしまうのだ。



2等 浅見理英(大阪市立大学大学院)
井上太裕(大阪市立大学大学院)

本提案では「既存のまちなみを保存しつつ、現状の持ち家住宅志向を満たしたミニ戸建て住宅の形成」、「居住者・業者・まちの住民3者にとって最適な住宅の形成」、のコンセプトにより新たなミニ戸建て住宅を提案した。まず、お屋敷の敷地を均等割りすることで、隣居する居住者にとって平等感を、業者にとっては開発の幅広い可能性を提供した。今後、複数での建物更新が起こった時の権利関係問題などにも対応しやすくした。また、まちの住民にとって、歩行者として従前のお屋敷のときと変わらないまちなみを感じることが出来るように、住宅のファサードの連続性や、外構の連続性を重視した計画とした。



3等 土山和哉(大阪市立大学大学院)
松本宏喜(大阪市立大学大学院)

既存の都市構造のグリッドとは全く異なる方向に走る幹線道路が計画されている。その道路は数多くの家々をなぎ倒し、さらに土地に刻まれた街区までも壊してしまう。そして多くのヘタ地を作ってしまうのである。計画道路に付随して発生する問題として、最終的に道路が開通するまで計画道路沿いの土地の遊休地化という問題がある。本計画では、道路周辺の建物が解体された後すぐに、ミニ開発を行うことを提案する。
異なる二つのグリッドをつなぐように、敷地内に道を配置する。実際の空間は小さいながらも少しでも大きく広く見せたいという住み手ニーズに答えるため、「エイムズの部屋」に見られる錯覚作用を意識しながら、住宅の配置および内部プランを構成した。






◆審査経過

2005年3月16日、大阪市立大学において「田園になお住まう 小規模分譲住宅(ミニ開発)設計競技」審査会・表彰式が開催されました。

中谷(司会) まず全体的な総評からお願いします。

前川 「くもがくれ」(大竹・西本案)、「エンプレス浜寺」(土山・松本案)は、対象敷地の問題だけでなく都市的スケールまで発展させた提案であり、大変興味深かったです。しかし後者は、道のつけ方が安易かなと思いました。その後の都市発展のキーとなるかは疑問でした。その点前者は、今後都市を補正する基点としてうまく提案されていたと思います。

福島 非常に面白い課題だと思います。「くもがくれ」は、将来性を考えている点で評価できます。ただ、めくら壁が多く、プランが1軒ごとに完結しているように感じられる。隣との関係をもっと考慮に入れることはできたのでは。植えた木によって、日照が悪くなる事も考えられます。「エンプレス」は、考え方は面白いのですが、一見の見た目が今までのミニ開発なのが残念ですね。狭くて、住みにくくユーザーの利点も分かりにくいです。

岡田 いずれも興味深い案です。「くもがくれ」は、地域特性を敷地割以外に緑地にまで活かすように考えられていた点が良いと思います。「エンプレス」は、周辺の地域特性を真ん中の道を通す以外に読み込めると、良くなったのではないでしょうか。「お屋敷に住みたい」(浅見・井上案)は、実現可能性が高そうですが、3つで一つに見せたい以上の部分をもう少し見たかったと思います。

審査風景1

3つのバランス

中谷 ありがとうございます。では、ミニ開発に求められる設計の要点を審査員の方から提案していただきそれらを考慮に入れた上で、これらの案を見直してみたいと思います。『10+1』掲載「オバケミニ開発」担当者の福島さんから、何か要点を提案いただけませんか。

福島 大きく3要素あると思います。ミニ開発を求める住み手、開発業者、まち の3つです。住み手にとっては、何かと便利な都市での生活と、小さいながらも戸建てを得るという満足。業者にとっては、法規をクリアできた上で、土地購入から住宅の売却までの流れが短縮できるということ。現状のミニ開発では、主にこれらの2点が重視されているのだと思います。しかし、もう一つ必要なのがまちの視点です。現状では、個性をアピールしようという意思が働きすぎているため、周囲から浮き上がったユートピアが出来上っていますが、むしろまちに溶け込む方法を模索する方がよいのではと思います。そこの環境が良ければそれに溶け込む、悪い環境ならば良くするように貢献する。いずれにせよ、周囲との関係は考慮すべきです。住み手、業者の利点を生かしながら、どのようにまちに対して貢献できるか。これらの3つのバランス関係が、重要だと思います。(図1)

図1 住み手、開発業者、まちの3つのバランス

大竹 コンペに参加してみて、設計者側からはまちに対する考えは取り入れやすかったけれど、業者の立場は考えにくかったというのが感想です。

前川 その3つのバランス関係で考えると、「まち」への提案としての道路計画が、ただの車の道として提案されているのではなく、最初は路地空間として使うことできる「住み手」に対する利益の上で提案されている点で、「くもがくれ」は評価できますね。

中谷 時間性が付与されている。

井上 先ほどの3つのバランスという視点から私たちの提案(「お屋敷に住みたい」)を振り返ると、開発業者、まちのニーズに対する提案はできたと思います。ただ歩く人から見た景観から、壁を決定したために、居住者のニーズがもっと重視できればよかった。

福島 「お屋敷に住みたい」は、平等に敷地が割られ家が建てられているので、業者の立場から見れば一番実現されそう。

中谷 開発者のニーズと、まちへの貢献を一緒に実行することは難しかったですか。

井上 「お屋敷に住みたい」は、土地の均質性を保持しながらできる案です。歩いている人にとっての見え方を考え、壁の流れなどをつくりました。

中谷 提案では土地割は均等に三つ割っていますが、たとえば鍵形に組んだような土地割りでは、駄目なのでしょうか。「お屋敷に住みたい」では、視線が抜けてしまっているところが問題ですね。(図2)

図2 「お屋敷に住みたい」住居間の様子

岡田 門などを使う事によって、単調な敷地割をどうにかできないでしょうか。

中谷 歩く人にとっての見え方というのは、端的で良いと思います。

前川 設計で重要なのは、間のデザインだと思うんですね。「エンプレス浜寺」は、せっかく抜き取ったスキマがもったいないですよね。あけるならあける、閉じるなら閉じるというのが重要なんじゃないでしょうか。



転売の可能性

中谷 岡田さんが考えられる、ミニ開発での設計要点とは何ですか?

岡田 安く買えるということ。利用者にとっては、費用が大事な問題だと思います。

中谷 価値があがるあるいはさがらないというのでは、違いますか?

岡田 この値段で、ここまで!というのが欲しいですね。

中谷 例えば、このように敷地はまっすぐ割られていても、空地を共有するような建て方はできますよね。(図3)

図3 空地を共有する建て方

松本 現在のミニ開発は、塀がたっているか塀を立てる事ができないくらいのどっちかですよね。

中谷 景観上の共有ができるんじゃないでしょうか。ただ一方で、それすらしたくないという場合もあるのでしょうか。

井上 隣人とは利害関係があるので、なかなか共有するというのは難しいですね。

中谷 二軒先の隣となら共有できるかな(笑)。

前川 「二」で関係性をつくると危ないということですね。

福島 でも、二以上の関係性をつくってどれとも上手くいかないと四面楚歌ですね。

中谷 村八分ってことですね。司会者なのですが、少し論議に参加すると、ミニ開発で、他に重要なのが転売できるということだと思います。転売可能性。ミニ開発の住宅は、終のすまいではない。次の人が、買えることが大事。

前川 そうなると、土地の形状が難しい物は、転売しにくいですね。

福島 「くもがくれ」では、土地の形状が複雑ですから、その実現には特殊はコミュニティが必要そうですね。

前川 基本的にミニ開発は完結しているところがあるから、次に他人が入るのは難しい感じがしますよね。「くもがくれ」は、転用可能性の面からみると難しいのではないでしょうか?

大竹 今回の提案を、コーポラティブ建て売りとすれば、どうでしょうか?コーポラティブマンションでは垂直的な交叉が起こってきますが、それをあえてせずに転売しやすくする方法ですね。各住宅は戸建てなので、一つの自立性を持つ事はできます。そこに、コーポラティブ住宅のような、コミュニティのルールも附帯させるという折衷案。

審査風景2

間合いの取り方

中谷 前川さんはミニ開発における設計の要点をどう考えていますか?

前川 周囲とどういう風に距離感を保つのかつまり、間合いの問題はミニ開発においては非常に重要だと思いますね。

中谷 間合いの取り方には、どのような計画が考えられるのでしょう?

福島 すべての玄関が鉢合わせになっているのは嫌ですよね。入り口は鉢合わせない。

中谷 たとえば緩やかに私有を表現する、塀なしの門はどうでしょう?

前川 神社の鳥居みたいなものですよね。それはミニ開発にとって有効な境界のつくりかたになると思います。塀はなくても、門があることによってある程度の境界はわかりますよね。

中谷 今のミニ開発は、境界がリジッドすぎるんですね。

前川 そうですね。それがミニ開発特有の自閉的なコミュニティを作りあげている原因のひとつだと思います。結局リジットな境界を設けるのは自分の土地が他人に占領されるのを回避するためなのだけど、一時的な占領、つまりただ他人が歩くとかそういう程度なら気にならないと思います。流動的な占領を許容する境界づくりが必要だと思います。

中谷 あと、裏口を設けるのはどうでしょうか。長屋には裏口があって、それは何かあった時にやはりとても安心なんですね。玄関がひとつだけということだ けで僕はマンションに住みたくなかったりする。つまり二面が道に面するのが重要。

前川 住民には表の顔と裏の顔が必要ですね。

◆総評(審査員一同)


ミニ開発に求められる設計の要点としてあがった、利用者・開発業者・まちの三つのバランス、転売の可能性、間合いの取り方、この三点を基準に審査を行いました。

一つ一つについてコメントします。

「くもがくれ」では、上にあげた三つの点が比較的よく考慮されおり、それに加え、時間性(将来性)への配慮があったことを評価したいと思います。

「お屋敷にすみたい」は、一番バランスが取れており、いますぐにでも実現が可能であるという点を評価したいと思います。ただ、時間性への配慮など、まだ多くの点で発展可能な部分が残されている案であると言えます。

「エンプレス浜寺」は、将来ひかれる計画道路を問題とするなど、敷地分析・着眼点が優れていたと思います。この敷地分析をもう少し実際の案に反映してもらいたかったです。




◆表彰式

中谷礼仁氏から1等案、2等案、3等案それぞれに賞が手渡されました。

 

表彰式の模様

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