塩入れ

”デア・アドラー[1]” 1933年7月16日

 

 数年前、レストランでのウィーン人の食事の仕方について、小さな文章を書いたことがあるが、掲載してくれる新聞は一紙もなかった。読者を失うようなこと書いているから、強制してまで掲載してもらうわけにはいかない。こんなことを書いた。

「ウィーンのレストランで食事をする際に困ることがある。各人が自分で塩を足すことができないのである。塩をすくうスプーンが用意されていないのだ。そのため誰もがナイフを直接塩つぼに突っ込むことになり、塩にはその店のありとあらゆる料理の味と色が染みついてしまう」。

 この一文をある男に読ませた際に、彼のような男も含めた一般のオーストリア人を啓蒙するために西洋文化入門を書く必要があると感じた。それが後、私の個人冊子『他なるもの』の発刊につながった。

男はこう言った。

「これは不潔でもありますよね。何しろ皆さん、食べ物をつけたままナイフを塩の中につっこむんですから。僕は塩を足すときは、かならずナイフをなめてきれいにしてから、塩つぼに突っ込むようにしています」。

 まったく目くそ鼻くそを笑うとはこのことだ。

 

卓上塩入れ礼賛

 ひとは時に贅沢なものより、日常的に使う、それほど高くもない素材で作られた小さな日用雑貨に喜びを見いだすことがあるが、その手の趣味はなかなか乙なものである。その一方で、精巧に作られたポケットナイフや自分の手にしっくりくる使い勝手のいい万年筆をなくしたりすると、すっかり困ってしまうこともある。

 私にも大きな喜びを与えてくれる小物がある。それは、ごくありふれた木材で作られている新型の卓上塩入れである。白く塗られている小物で、毎度の食事に欠かせない。キノコが生え出たような姿で、頼もしそうにテーブルの上に立っている。この小さなお手伝いさんにいつでも声をかけられるよう、料理全体の塩味がもっと薄くなってくれないものか、ひそかに願うようになったほどだ。匙がないため、ナイフで塩をすくわなければならなかった今までの塩つぼとはまったく違うのである。最近卓上塩入れも広く定着し始めたのはありがたいことだが、使い勝手がまだ悪い。振っても最初はほとんど出ないのに、振っているうちにどばっと出てしまう。私の塩入れはそうではない。理想が形になったというべき塩入れだ。木でできていることはすでに述べたが、木は湿気やすい塩から水分を取り除く作用がある。そのおかげで塩がダマにならず、固まることもない。ヘッドにあるつまみを調節すれば簡単に適量を出すことができ、乾いて硬くなった塩を粉砕してくれる。便利この上なく、使っていて楽しいこの塩入れの値段はたったの1.60シリングである。

(1099文字)

 

  1. 『デア・アドラー』(Der Adler)はアドルフ・ルーザー出版によって1933年7月にウィーンで創刊された新聞。ナチズムの広報活動から離れた、ドイツ国家のための新聞とすることを目的とした。サブタイトルは「草の根政治と文化のためのインディペンデント・デイリーペーパー」。